生活習慣病と運動には密接な関係があります。運動をすることによって身体の代謝を促し、血糖値や脂質、血圧の改善が期待できます。また、運動によって筋肉量が増加すれば、代謝機能がよくなり、糖尿病の前段階といわれる耐糖能異常の予防にも有効といわれます。
健康診断などで生活習慣病の恐れがある場合には、適切な運動で予防をしましょう。さらに、生活習慣病に罹患してしまった場合には回復させるために運動療法を用いる場合があります。
このように、糖尿病や高血圧などの生活習慣病にとって、運動は予防のみならず、病気を改善することにもなるのです。
運動不足は生活習慣病の原因となる
現在、世界中で運動不足問題が深刻化しています。2013年のリオオリンピック開催に合わせて「ランセット」という世界的な医学誌が特集した記事では、世界の運動不足がもたらす経済損失が年間で約7兆円にも及ぶ規模であるということが発表されました。特に、日本を含む高所得国ではこの傾向が大きかったといいます。もちろん、各国では運動不足解消に向けてさまざまな政策を行っていますが、大きな成果が得られていないのが現状です。
実際、厚生労働省の平成28年調査では「糖尿病が強く疑われる者」が約1,000万人いるとされ、平成9年以降増加しています。そして、慢性の運動不足はその原因の一つと分析されています。
実際に私たちの生活を振り返ってみてもわかるように、さまざまな物事が便利になったことにより、運動量が低下しています。また、仕事や家事などで時間に追われている方は、仮に「運動がしたい」と思っても十分な時間がとれないという悩みもあると思います。
しかし、前述のように運動不足は生活習慣病の原因となります。身近にできることで構いません。エレベーターを使わずに階段を利用する、1駅分歩くなど、できることから始めてみましょう。
生活習慣病予防のための運動習慣
ノルウェーの大学教授が北米や欧州、日本、オーストラリア等で実施された調査データを分析した結果、毎日8時間以上座る姿勢でいる人は、1日に1時間の運動を習慣化することで、死亡リスクを改善できるという研究成果を発表しました。
毎日8時間以上座るということは、心疾患やがんによる死亡リスクを上昇させます。しかし、1日1時間の運動習慣を身につけることによって、その上昇した分の死亡リスクを帳消しにする効果があるのです。
私たちが生活習慣病を予防するためには、日々の生活習慣を見直す必要があります。その重要なポイントの一つが、運動習慣を適切なものにすることなのです。
では、具体的に適切な運動習慣とはどのようなものでしょうか?
厚生労働省が発表した平成27年の調査結果において、「運動習慣がある者」とは、「1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者」としています。その調査では、運動習慣がある者の割合は男性が37.8%、女性27.3%しかいませんでした。
運動に必要な時間や量は、選ぶ運動の強度(例えば、水泳の運動強度はジョギングよりも強くなります)によって異なります。しかし、継続して行うことが、最も重要です。日常生活の中で無理なく行える運動を選択しましょう。
生活習慣病予防のための運動は、具体的には以下のようなものです。
・歩行と同等以上の身体活動を毎日60分以上
・65歳以上では身体活動の内容は問わず毎日40分以上
・息が弾み、汗をかく程度の運動を週に60分以上
生活習慣病治療のための運動療法
生活習慣病になってしまった場合、病気の改善をするためには食生活などと併せて適切な運動習慣を身につけることがとても大切です。
適切な運動習慣は、血圧の低下、脂質異常の改善、糖尿病の改善、肥満解消、ストレス解消など、さまざまな健康効果を期待することができます。また、血流を促進することによって、合併症としての動脈硬化や心疾患の予防にも繋がります。
もちろん、この段階での運動習慣は病気という状態にあるため、運動の種類や量などは、かかりつけの医師のアドバイス・指示に従う必要があるということを忘れないでください。あくまで「適度」な量の運動が必要なのであって、「過度」な運動をしてしまうと病気に悪い影響を及ぼしてしまいます。
基本的な運動療法とは、「軽い運動を毎日継続する」ことです。医師の指示に従いながら行う、ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動は特に有効です。また、日常生活でエレベーターを使わず階段をしようしたり、一駅前で降りて会社まで歩くなどの日常生活のすきまを活用した運動の増加をアドバイスされることもあります。
この時に注意していただきたいのは、運動療法の効果が現れるのは一般的に3~6ヶ月後であるということです。生活習慣病治療のための運動療法をする場合には、焦らずじっくりと取り組むようにしてください。